マネジメント 3.0やリーン・チェンジマネジメントのワークショップで共同ファシリテーターを務めている荻原慎太郎さんに、過去の社内での経験やこれまでのマネジメント3.0を実践してこられたお話を伺いました。
マネジメント 3.0はそれぞれ自分の環境に合わせて使うことができるのが良いところです。失敗から学んだこと、そこから得た成功体験、ツールとの組み合わせ、周りを巻き込む力、マネジメント 3.0のメッセージが随所に見える事例です。
組織階層の中で
鹿嶋:では、荻原さんが行ったマネジメント 3.0の事例や過去の失敗談なども含めていろいろとお伺いできればと思います。
現在はどのような会社で働いていらっしゃいますか?
荻原さん:20年間IT関連の会社で働いてました。2019年の終わりの方に、マネジメント 3.0と出会ってワークショップに参加させていただいたことが転機になりました。
大失敗を経験しているので…まずは、そこから話していこうと思います。
私のグループは、作業量が非常に多く、メンバーへの負荷も高い状態が続いていました。メンバーの負荷を下げたくて、プランニングをしたり、交渉をしたりしていました。
でも、結果的に交渉しているつもりになっていて・・・。プロジェクトとしては達成しましたが、成功というにはほど遠い内容となってしまいました。
ちょうどその時に、鹿嶋さんのすすめもあり、マネジメント 3.0を学びに行きました。そこで学んだことをもとに新しいメンバーとのやり取りでマネジメント 3.0を使いながら自律分散的にやったらちゃんとできたという感触がこの時初めて芽生えました。
(マネジメント)1.0に1.0で対抗してはだめなんだと気づかされました。ヒエラルキーが強いと、権力が強い方が必ず勝つんですよね。あと、正論だけでは人は動かないことも分かりました。組織の中で、何かを変えたいときの方法を間違えたのだと思います。
失敗から学んだこと
鹿嶋: 荻原さんにとって、ここから学んだことは何でしたか?
荻原さん:当時を振り返ってみると、失敗も経験値にすごくなっています。
人を動かすとか物事を少しでも改善させるというチェンジマネジメントについての知識や認識が甘かったり、急激にやりすぎたのだと思います。
杉山:これはどのくらいの期間のお話だったのでしょうか?
荻原さん:約1年の間の話ですね。
鹿嶋:チェンジマネジメントをより本格的に学ばないといけないということや、たくさん失敗してみるしかないかもしれませんね。
荻原さん:物事を極力単純化する方向に動いてたなという感覚はあります。
複雑を単純化することの弊害がすごく大きかったと思います。単純化すると二項対立になりやすいので、自分が正義感、そして正論の立場にいると変なエンジンがかかりやすく視野が狭くなるようなことが起こりやすいと思います。
複雑を複雑で捉えることの大事さはこういうことですし、そのために複雑の解像度をより上げる大事さもありますよね。
鹿嶋:さらに ファシリテーターになって 深まってる感じがしていいですね。
新しい環境でのマネジメント 3.0の実践
鹿嶋:では、次にキャリアが変わっていく話を聞かせてください。
荻原さん:ユーザーの 困りごとを整理したり、解決するような仕事をするようになりました。ステファンのグラフィックファシリテーションのような感じでホワイトボードに書いたりしていました。
荻原さん:そんな中、若手のみなさんがプロジェクトが進まず少し苦しんでたので一緒にお手伝いすることになりました。
「Z世代との短期プロジェクトマネジメント 3.0を詰め込んでやってみた」で、まとめたものがこちらです。
若手数名の小さなプロジェクトで、 いろいろなものの計測をしたいけどうまくいってない、手書きが多いから何かうまくやりたいというような話をしていたので、お手伝いにはいりました。僕が途中から入る側だったのでオンボーディングとして、パーソナルマップとムービング・モチベーターをやってみました。
カードを1セットしか持って行かなかったので、このようにホワイトボードに書きながら行いました。
秩序を挙げるメンバーには、こういう形でやってねって言う方がちゃんとやってくれるとか、関係性とか自由が高いメンバーはなんとなく伝えてても自分で考えてやってくれるとかこの結果をプロジェクトでも活かしていましたね。
鹿嶋:荻原さん自身は昔から黒板やホワイトボードを使って 会議とかされてたんですか?
荻原さん:私は比較的してた方だったとは思います 。2018年ぐらいに グラフィックレコーディングを学んだんです。ファシリテーションの心得みたいなものを学ぶ機会があって、絵にしたり形にするってことが大事だということを学びました。
パワーポイントやノートパソコンに箇条書きで書いていっても話が盛り上がらないんです。書く人も議論に参加すると会話が止まってしまって。
でも、手書きは視認性が高く、書きながらでも会話できるので、ホワイトボードは意図的に使っていました。無い時はA3の紙に何枚も書くのでもいいと思っています。
最初は何も書けなかったんですけど、今日のゴールは何にしようかと、必ず皆さんにも書いてもらうようにしていました。
話題を保留しておくような場所や他の内容はここで後で話しましょうとか、ゴールを作って可視化することをしていったら、私がいなくても自然と自分たちでできるようになっていきました。
鹿嶋:素晴らしいですね!どのぐらいの時間がかかりましたか?
荻原さん:3ヶ月ぐらいですね。 対面は月一回ぐらい。週1か週2でぐらいで自分たちでミーティングしてくださいねって感じで進めました。
周りを巻き込み、変化を起こす
杉山:荻原さんがいなくてもチームが回っていたポイントは何だったと思いますか?
荻原さん:リーダー的な立場の方がいたことだと思います。
杉山:もともと自律的なメンバーがいらっしゃったのが大きかったのでしょうか?
荻原さん:そうですね。思いはあれど、動き方が全然分からなくて周りを巻き込めないってずっと悩んでいたようなのです。そこで一緒にやってみようかと始まったんです。
悩み事が分解できてなかったので、(リーンチェンジマネジメントの)もやもや整理シート(Hot Seat)っぽくそれを特定することなどをしていました。
あとは最初にミーティングにゴールを設定したのが明らかに変化が出ていました。他には、ホワイトボードに書いてビジュアル化していくということができるようになったので、 実験や振り返りのループがうまく回り出していました。
関係者の巻き込みがうまくできてなかった点では、伝えたらまずいんじゃないかとか拒否されるんじゃないかとか思っていたので、 積極的に報告会とかヒアリングをする機会を設けました。
話してみたら意外と意見が出て来ることがわかって、巻き込み方を実感できたのではないかと思います。
杉山:そのような現場のお話はビッグベルさんのインタビューでもありましたね!
荻原さん:そうですね。小さいながらも3ヶ月ぐらいでうまく回ることを実感できたかなと思います。
成功と失敗
鹿嶋:すごい成功体験でしたよね。荻原さんはどうしてそれができたと思いますか?
荻原さん:そうですね。まず、どうにかしたいって思う人が一人でもいるって事はとっても大事なのかなと思いました。そこに、どうエンパワーメントができるかと考えたんです。
最終的に結果が出なくても、学びが進めばいいという気持ちで僕もサポートしていました。
鹿嶋:結果から追わずに関係性、エンパワーメントから…マネジメント3.0の アプローチから入っていったという話ですね。
荻原さん: 失敗できる環境、所謂、心理的安全性に近いもの含めて提供できたっていうのはあるかなと思います。
杉山:荻原さんは「失敗してもいいよ」と声掛けされていたのですか?
荻原さん:そうですね。上からトップダウンで降りてきたものでもないので、実験的にやって成功したら次に進もうって、リーンチェンジのモデルに近いような感じの話をしていました。
杉山:ちなみにこの振り返りはツールなど何か使われましたか?
荻原さん:ツールは使っていないんですけど、必ず打ち合わせの時にアイスブレイクの後に振り返りの時間を設けて、KPT、所謂、成功した点や良かった点、悪かった点、困ってる点をホワイトボードを使って書き出していました。
鹿嶋:以前の失敗の時と今回やった時で、成功の違いや感触の違いはありますか?
荻原さん:今回は外部コンサルに近い感じだったので、順序立ててツールやゲームを使って関係性を構築し、物事を進めていくことができると実感できました。
ある程度小さい環境の方がやりやすいのかなっていう感じはあります。
鹿嶋:これは、何で変化ができないかという答えにも繋がっていると思いますね。
荻原さん:成功体験が少ない方が入りやすいですよね。 成功体験をして行けば行くほど多くの知識や方法などを持っています。自分の成功体験やステレオタイプと違うと、どうしても拒否の方に回ってしまいやすいのだと思います。
鹿嶋:そこが課題かもしれないですね。本質的な話なので、これまでの何度も当たっては乗り越えていくという壁のような気がしています。
扉を開く
鹿嶋:できない理由を考えるより、どうしたらできるのか。それもタイミングや運が全部絡み合っていることを理解しないといけないですよね。
ずっと思い続けていくと突然重い扉が開く瞬間があるので、どのように本当の問題に向き合うか、このあたりが荻原さんのテーマなのかもしれませんね。
例えば、外部でファシリテーションしながら、自分の言葉でストーリーを語りながら作って自分の中に 染み込ませていくとか。頭で考えることと実際に行うことって全然違うので、実践から訓練していかないと重い扉というか、人を動かすってすごく難しいかもしれないですよね。
荻原さん:それはこの間のリーンチェンジマネジメントのワークショップでファシリテーターを行った時にも思いましたね。
ファシリテータープラクティショナーになるというのは、伝え方も含めて行動や言動がいろいろなものに影響するのだと感じました。
自分の発言するタイミングとか同じことを言うのでも伝わる方法って人とシチュエーションによっても全然違ってくるので、届かないとやってる意味があまりなくなってしまって、お互いにもったいないです。
腹落ちした後にそれをいらないという人は構わないのですが、やる前から拒否したり、何のことだか分からないというのはやっぱり伝える側が工夫をしなきゃいけないのだと実感します。
鹿嶋:荻原さんはコーチングもできるし僕はこれからもまだまだ躍進されると思っています。
荻原さんみたいに勉強しながら経験しながら、それが楽しいと思う人たちが増えていくと、マネジメント3.0も学んだ時よりもより価値が高くなってくるはずです。
マネジメント 3.0は、噛めば噛むほどっていう意味で自分の中で進化していく道具なので、その辺りが荻原さんの歴史からも見え隠れしてるなぁと感じました。
今日お話ししていただいたのは、4,5年の ストーリーですよね。
2019年の当時のワークショップに参加されたのは、今思い起こすだけでもすごいメンバーが来ていて、 今もそれぞれのところで活躍されている人たちです。荻原さんの成長しているお話を伺えることが私は嬉しいですね。
先日のIT企業さんの体験ワークショップでもムービング・モチベーターズの説明とエクササイズを担当してくれましたよね。心強い仲間です!これからも一緒に活動できるのを楽しみにしています。
終わりに
鹿嶋:ではみなさん、最後一言ずつ感想をお願いします。
ステファン:いろいろな実験をされてすごいと思います。やっぱり一人でマネジメント 3.0を導入するのは難しいので、仲間が大事ですね。ぜひこれからも 頑張ってください。私たちもお手伝いします。
杉山:苦境を経て荻原さんらしさを発揮して場づくりをされたご経験は、とても勉強になりました。
荻原さんの心遣いや熱心なところ、一緒にワークショップをさせていただくときに垣間見える心配りが私はとても好きです。これからもご一緒できるのを個人的にも楽しみにしています!
荻原さん:過去を経験して今があることが自分でもすごくよく分かりました。もうちょっとマネジメント 3.0を広げていきたいですし、いろんなものを伝えられる ように自分でも精進していきたいなと改めて思いました。