Management3.0とスクラム開発が切り拓いた新規事業の軌跡
~ふるさと納税×教育支援プラットフォーム立ち上げ、その舞台裏~
インタビュー
実施日:1月28日(金)17:00-18:00
対象者:
・事業企画担当 兼 プロジェクトリーダー 兼 プロダクトオーナーの遠藤敦子さん
・Management3.0 ファシリ仲間のスクラムマスター尼子恵理佳さん
インタビュアー:山本尊人、カッシー
目次
第一章:アイデアから事業化への道のり
- プロジェクトの概要と誕生秘話
- 大学・自治体との対話構築プロセス
- チーム結成とビジョンの確立
- チームビルディングとManagement3.0の実践
- プロダクト開発における工夫と改善
第二章:サービス開発の舞台裏
- プロダクト開発における工夫と改善
- 挑戦と気づき(進め方のアジャイルとウォーターフォール開発のハイブリッド)
- 組織変革への取り組み
- プロジェクトの成果
第三章:未来への展望と可能性
各方面へのメッセージ
最後に:これから続く人へのエール
編集後記
第一章:アイデアから事業化への道のり
1. プロジェクトの概要と誕生秘話
Q: SCSKのふるさと納税サービスについて、その特徴を教えてください。
A: 私たちが開発したのは、従来の返礼品中心のふるさと納税とは一線を画す、目的型のふるさと納税プラットフォームです。特筆すべき点は、教育機関支援に特化していること。各大学や地域の具体的なプロジェクトに対して直接自治体を通じ寄付ができる仕組みを構築しました。
実は、このアイデアは2021年度のSCSKイノベーションプロポーザルという社内制度から生まれました。若手社員たちのチームが、社会課題と会社の強みを掛け合わせて考案したものなんです。
Q: どのようなプロセスを経て実現に至ったのでしょうか?
A: 起案チームからバトンタッチを受け、私の組織にてインキュベーションの体制を整えました。最初のブレイクスルーは、「推し活」の概念を教育支援に応用しようと考えたことでした。アイドルファンが推しを応援するように、自分の母校や訪れた地域の大学など、何らかの形でゆかりを感じる教育機関を応援したいという気持ちに着目したんです。
私自身、静岡の浜松出身なのですが、誰かが「浜松に行く」と言うと、つい地元の良いところを熱心に紹介してしまう。そういった地域への愛着や誇りを、もっと具体的なアクションにつなげられないかと考えました。
2. 大学・自治体との対話構築プロセス
Q: 最初の協力パートナーをどのように見つけられたのでしょうか?
A: 北海道大学との出会いが大きな転換点でした。実は、グループ会社であるSCSK北海道が北海道大学と連携協定を結び、協同で人材育成の取り組みをしているという情報を得たんです。※参照、そこから、直接コンタクトを取らせていただきました。
印象的だったのは、最初の面談での北海道大学の反応です。「寄付金額の多寡よりも、多くの人に応援されることが重要」という言葉に、私たちのビジョンとの強い共鳴を感じました。特に、従来の寄付集めでは若い世代からの支援が少ないという課題に対して、私たちの「推し活」型アプローチが新しい解決策になるかもしれないという手応えがありました。
3. チーム結成とビジョンの確立
Q: チームの編成はどのように行われましたか?
A: チーム編成で特に重視したのは、多様性とビジョンの共有です。ビジネス、デザイン、技術、セールス、マーケティングなど、異なる専門性を持つメンバーの強みをさらに発揮してもらうように働きかけました。
特に注力したのは、各メンバーの「なぜこのプロジェクトに参加したいのか」という動機の明確化です。Management3.0のMoving Motivatorsというツールを使って、各人の価値観や動機を可視化しました。例えば、あるメンバーは「社会的意義」を重視し、別のメンバーは「技術的革新」に魅力を感じるなど、多様な参加動機が明らかになりました。
4. チームビルディングとManagement3.0の活用
Q: チームビルディングにおいて、どのようなアプローチを取られましたか?
A: Management3.0の手法を立ち上げに活用しました。初期段階では、チームの価値観や目標を共有するために打ち合わせやワークショップを実施しました。Personal Mapsを使ったチームメンバーの相互理解の深化です。普段の業務では見えない個人の背景や関心事を共有することで、チームの心理的安全性が高まっていきました。そのあと、各メンバーが何を重視しているのか、どういった形で貢献したいのかを可視化することで、チームの多様な価値観が明らかになりました。
Q: 具体的にどのようなワークショップを行ったのでしょうか?
A: 紙飛行機を作って飛ばすワークショップです。チームで計画を立て、実行し、改善のための振り返りを3回繰り返すことで、チームが一体となって試行錯誤する楽しさを実感できた経験になりました。
チームで計画を立て、実行し、振り返りを行うサイクルを3回繰り返すのですが、面白いことに回を重ねるごとにチームの動き方が変化していきます。最初は個々人がバラバラに動いていたのが、徐々にコミュニケーションが活発になり、効率的な動きができるようになっていく。この体験を通じて、継続的改善の重要性を実感できました。そのあと、権限委譲の範囲を明確化し、チームの自律性を高めていきました。
第二章:サービス開発の舞台裏
1. プロダクト開発における工夫と改善
Q: サービスの具体的な設計で重視したポイントは何でしょうか?
A: 「応援したくなる」体験設計を目指しました。例えば、北海道大学の起業家育成プログラムでは、学生たちの具体的なチャレンジの様子を写真や動画で紹介。単なる寄付ではなく、プロジェクトの進捗を実感できる仕組みの第一歩を実装しました。
現在のバージョンでは、以下の3点を基本的な機能として提供しています:
- プロジェクトの見える化:
各大学の取り組みを、数値や成果だけでなく、関わる人々の想いや日々の活動まで紹介するよう試みています。例えば、札幌市立大学では、芸術学部と看護学部の学生が協働で地域の高齢者向けデザインを行うプロジェクトの様子を発信していますが、より詳細な活動報告の方法は現在改善を重ねているところです。
- 応援のハードル低減:
金額の設定を「1,000円から応援できる」という敷居の低いものにし、「応援コメント」という金銭以外の支援方法も用意しました。ただし、より多くの若い世代が参加しやすい仕組みについては、まだまだ改善の余地があると考えています。
- 地域性の反映:
各プロジェクトと地域との関係性を示すことで、ふるさと納税の本来の趣旨である「地域支援」の側面も意識しています。この部分は特に、より分かりやすい表現方法を模索しているところです。
Q: 開発過程で予想外の発見はありましたか?
A: 興味深かったのは、開発経験の少ないメンバーからの率直なフィードバックです。「本当にユーザーにとって使いやすいのか?」「寄付実行率がなぜ低いのか、ページの途中離脱がなぜ多いのか」という素朴な疑問が、現在進行中の改善活動の重要な起点となっています。
2. 挑戦と気づき(進め方のアジャイルとウォーターフォール開発のハイブリッド)
Q: スクラム開発を採用された理由と、実際の進め方について詳しく教えてください。
A: 新規事業なので、全てが仮説の状態でした。ユーザーストーリー、運営方法、マーケティング戦略など、あらゆる面で検証と改善を繰り返す必要があったため、スクラム開発を選択しました。
ただし、興味深い発見がありました。当初は「全てをアジャイルで進める」と考えていたのですが、実際にはハイブリッドなアプローチが効果的でした。特に最初のMVP開発では、ある程度ウォーターフォール的な進め方も必要でした。
というのも、ふるさと納税という性質上、行政システムとの連携や法令順守の観点から、しっかりとした仕様定義が必要な部分があったんです。この経験から、アジャイルとウォーターフォールは対立する概念ではなく、状況に応じて使い分けるべきものだと学びました。
Q: 開発プロセスで直面した最大の課題は何でしたか?
A: 最大の課題は、複数の組織にまたがるチーム編成でした。理想は、ビジネス、デザイン、技術、セールス、マーケティングの専門家が一つの組織として機能することでした。しかし、現実には組織の壁があり、調整に苦労しました。
特に難しかったのは、各メンバーの自律性の差です。例えば、上司と部下の関係性が強すぎると、部下が自律的に判断せず、常に上司の指示を待つような状況が生まれてしまう。これはアジャイル開発の理念とは相反します。
特に顕著だったのは、3月から4月にかけての要件定義フェーズは、まさに暗闇の中を手探りで進むような日々でした。メンバーも誰も正解を持っておらず仮説だけがある状態で、スクラムマスターの私自身もメンバーをいかに励まし、支えるべきか苦労しました。メンバーは「これで良いのだろうか」という不安が常にあったと思います。
チーム内でも、スキルレベルの差による軋轢が生まれ始めていた。デイリースクラムの場で、時折漂う重苦しい空気。その空気を変えるため、議論の内容を整理し、全員が前を向けるような場作りに必死でした。
光が差し込んだ瞬間
そんな中でも、権限委譲の範囲を明確化し、各メンバーが自信を持って判断できる領域を増やしていきました。少しずつチームは成長していきました。初めてのプロジェクトに戸惑っていたメンバーたちが、徐々に自信を持ち始める。互いの強みを認め合い、補い合える関係が築かれていく様子を見るたび、胸が熱くなった。
感動のフィナーレ
そして迎えたリリースの日。
画面に表示された「リリース完了」の文字を見た時、リリース当日記者会見で発表する遠藤さんの姿を見て、不思議なことに大きな高揚感はなく、「何とかリリースできた」という安堵と感謝の気持ちが心を満たしていました。しかし、その後に届いた反響は、私の心を大きく揺さぶった。数字や成果だけでなく、「おめでとう」「よく頑張ったね」という温かい言葉の数々。チームメンバーの晴れやかな笑顔、最高の贈り物となりました。
3. 組織的な挑戦と乗り越え方
Q: 新規事業立ち上げにおいて、組織としてどのようなサポートがありましたか?
A: グループ長、本部長、部長ら、マネジメントのサポートが大きかったです。新規事業は即座の収益化が難しく、我慢が必要な時期があります。その中で、「このビジネスはグループとして育てていく必要がある」という理解を示してもらえたことは、非常に心強かったです。
Q: 社内の理解を得るために、どのような工夫をされましたか?
A: 、様々な部門の理解と協力を得るために、方法論どうやるかではなく、何故やるのか、どうなりたい、という前提を丁寧に説明、共感を生むように推進しました。
社内の様々な部門を巻き込んだことです。例えば、コーポレート部門の方々も、前例のない取り組みにも関わらず、「どうやったら実現できるか」という前向きな姿勢で支援してくれました。
定期的な情報共有です。グループ会社の経営陣が集まる情報連絡会での報告を通じて、プロジェクトの進捗や課題を透明性高く共有しました。これにより、グループ全体からの支援を得ることができました。
4. プロジェクトの成果と今後の課題
Q: リリース後の反響について、具体的に教えてください。
A: リリースから1ヶ月が経過し、様々なフィードバックをいただいています。特に印象的なのは、応援コメントを通じて寄せられる具体的な改善提案です。
例えば、北海道大学のイノベーション教育の取り組みについては、「プロジェクトの進捗をもっと細かく知りたい」「学生との対話の機会があるとよい」といった建設的な意見をいただいています。また、サイトの使いやすさについても、「寄付の手順をより簡素化してほしい」「プロジェクトの検索機能を充実させてほしい」など、具体的な改善要望が寄せられています。
これらの声は、私たちのサービスがまだ発展途上であることを示すと同時に、より良いプラットフォームを作っていくための貴重な指針となっています。
第三章:未来への展望と可能性
Q: 今後のビジョンについて教えてください。
A: 現在は「改善フェーズ」として、ユーザーからいただいた様々なフィードバックに基づく改善を進めています。
特に注力しているのは以下の点です:
- ユーザーインターフェース(UI/UX)の改善:
現在のインターフェースは必要最低限の機能を提供している段階です。ユーザーテストやアクセス解析の結果を基に、より直感的で使いやすいデザインへの改善を進めています。
- コンテンツの充実:
プロジェクトの説明や進捗報告の方法について、より分かりやすく、魅力的な表現方法を模索しています。プロジェクトの魅力を より効果的に伝えるコンテンツの強化を行っています。例えば、各プロジェクトの背景にあるストーリーを深く掘り下げた取材記事の連載を始める予定です。特に、支援者との双方向のコミュニケーションを実現するための機能追加を検討中です。
- 運用プロセスの最適化:
大学や自治体との連携をよりスムーズにするため、運用フローの見直しと改善を行っています。
各ステークホルダーへのメッセージ
【寄付を検討されている方へ】
金額の大小に関わらず、あなたの「応援したい」という気持ちが、確実に大学や地域の力になります。まずは気になるプロジェクトをご覧いただき、その活動に共感できるものがあれば、ぜひ応援メッセージとともに支援をご検討ください。
【大学関係者の方へ】
このプラットフォームは、従来の寄付募集とは異なる新しい可能性を提供します。特に、若い世代とのつながりを作る機会として活用いただけます。プロジェクトの進捗や成果を発信することで、支援の輪がさらに広がっていく可能性があります。
【自治体の方へ】
地域と教育機関の新しい協力モデルとして、ぜひご注目ください。教育を通じた地域活性化は、持続可能な地域づくりの重要な要素です。すでに参加している自治体では、予想以上の反響があり、新しい層からの支援を獲得できています。
最後に:これから続く人への応援の言葉(エール)
この1年間の経験から言えることは、「小さな一歩」の重要性です。完璧を目指すあまり躊躇するのではなく、まずは共感してくれる人々と小さな成功体験を積み重ねていくことが、大きな変化につながります。
私たちのチームも、試行錯誤の連続でした。しかし、一つ一つの課題に向き合い、チームで知恵を出し合うことで、新しい可能性を見出すことができました。これから同じように挑戦される方々も、ぜひ自分たちなりの方法で一歩を踏み出してください。その一歩が、必ず未来につながっていくはずです。
編集後記
このプロジェクトは、従来の日本企業では珍しい、Management3.0とスクラム開発を組み合わせた新規事業開発の先進的な事例といえます。特に注目すべきは、チームビルディングにおけるManagement3.0の活用と、スクラムマスターの役割の重要性です。
また、このプロジェクトは単なるシステム開発にとどまらず、組織文化の変革にも影響を与えています。複数の組織にまたがるチーム編成や、アジャイルとウォーターフォールのハイブリッドな開発アプローチなど、従来の枠組みにとらわれない新しい働き方のモデルケースとなっています。
今後は、このプロジェクトで得られた知見を他の新規事業開発にも活かし、より革新的なサービス創出につなげていくことが期待されます。